いざ、宣戦布告 (たった今から全面戦争!)
力を失いつつある太陽は、ゆっくりとその身を赤く染め上げていく。 木々の陰影が濃くなり、空に伸びる枝がその形に夕暮れを切り抜く。 少し強くなった風にしのぶ夜の気配は、まだ、冬の冷たさを孕んでいた。 と、用具倉庫の前で、探していた背中を見つけ、声をかける。 「あ、喜三太。ずっと探してたんだよ。どこにいたの?」 「ごめん、ごめん。金吾に言われて修理してたから」 ねぇ、なめ太郎、と肩に乗せたナメクジに相槌を求める喜三太に、相変わらずだなぁ、と思う。 (癒しの用具委員会、って後輩に評判なだけあるなぁ) 委員長をはじめ、6年生がのんびりと穏やかな性格だからだろう。 ぬめぬめした湿り気を差し引いても、その平和さが勝つようで。 入りたい委員会No1を争う委員会らしい。 (作法はなぁ、、、怖いってイメージがあるんだろうな。まぁ、いいけどさ。実際、怖いと思うし) 「修理?」 「そう。裏裏裏山から裏裏裏裏山に掛る吊り橋の板が壊れてたんだって」 「金吾は後輩思いだからな」 僕の言葉の意味がつかめない、といったかのように、首を傾げた喜三太に説明する。 「明後日、うちの3年生が郊外ランニングで使うって言ったんだけど、 金吾のことだから、きっと、危ないところがないか、点検に行ったんだろ」 「あー、金吾らしいね」 「あれで、無愛想じゃなきゃ、もっと人気なんだろうけどな」 「そうだね。でも、結構、体育委員会に入りたいって声聞くけどね」 「一番は、喜三太達用具委員会じゃない? 後輩思いだって聞くよ」 「そうかなぁ?」 ふにゃりと喜三太は微笑むと、ふ、と急に表情を変えた。 「ところで、兵太夫、何か僕に用事があったんだよねぇ?」 「あ、そうそう。例のもの、届いた?」 喜三太に言われて、ずっと探していたことを思い出した。 来る予算会議に向けて、いつものようにカラクリを作っていたのだけれど。 どうしても足りないものがあって、用具委員会を通じて、福富屋に注文していたのだった。 「しんべヱの家から今日届くはずだよ」という喜三太の声に、「喜三太ーあ、兵太夫!」としんべヱの声が重なる。 「あ、ちょうど来た」 「おまたせ。遅くなってごめんね」 「これで何を作るの?」 しんべヱから手渡された大きな包みに、喜三太が怪訝そうな視線を向ける。 「予算会議の時までのお楽しみ。しんべヱも来るだろ?」 「うん。もちろん行くよー、お菓子持って見学に」 「なら、楽しみにしててよ」 「でもさぁ、兵太夫も後輩思いだよね」 「うんうん」 頷き合っている二人の意図が分からず、思わず「は?」と素っ頓狂な声が飛び出た。 「だってさ、一応、狙いは団蔵だけで、後輩には仕掛けないし」 「そうそう。他の後輩が引っかからないように、見張ってるもんね」 「やっぱり、兵太夫は後輩思いだよねー」 「そうだね。優しいよね」 「「ねー」」 無邪気な二人の笑顔に、自分でも顔が火照るのが分かった。 (赤くなったのは、夕日のせいだ。うん。夕日のせい) (「早く予算会議にならないかなぁ」「楽しみだねー」) ← →
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