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やんわりとした橙色の光が、軒先から吊るされた提灯からもれてくる。 まるで異国の言葉のような読経の声は密やかに耳をすり抜け、淡く藍色の空に広がっていく。 お堂の外側では、近所の人たちが、団扇をあおぎ、「暑いわね」「暑いですね」と、たいして中身のない会話を紡ぎ続けている。
色とりどりの浴衣を着た子ども達は、まるで毬のように大人達の周りを跳ね跳びまわっている。地蔵盆のお勤めが終わった後のお下がりを期待してどこからともなく集まってきていた。 まだ体が小さいからだろう、子ども達の纏っている金魚帯が、ピンクや黄色の鮮やかな軌跡をゆらゆらと描く。
その様を私は参列者に混じりながら、ぼんやりと眺めていた。

「久々知先輩」

ふ、とその中に見知った背中があって、私は声をかけた。 ゆっくりと振り向いた先輩は、私の姿を認めるとしっかりとした足取りで近づいてきた。 走り回る子ども達とぶつからないように避ける様は優雅で、金魚が泳ぐ水槽に漂う水草ようだと思った。

「あ、始まった」

参拝の列が動き出して。 からん、と削り取るような音が聞こえた。 音の元を探しに、視線を落とすと、暗闇に白木の下駄が浮かび上がった。

「先輩、下駄履いてきたんですね」
「靴より涼しいからね」
「下駄だけじゃなくて、浴衣も着てきてくださいよ」
「え?」
「先輩の浴衣姿、見たかったです」

そう呟いたら、先輩は「じゃぁ、今度、夏まつりに行こうか」と笑った。「一緒に浴衣着てさ」と。