どうせまた、ハチが水中で兵助の足でも掴んで倒そうとしてるのだろう、ぎゃあぎゃあと騒いでいるのが遠目にも分かった。元気だなぁ、とそんな様子を陸からぼんやりと眺める。充実した気だるさと、まだプールの中にいるような浮遊感が心地よい。体から滴り落ちた水が自分の周りに溜まり、色濃い染みが拡大していく。生暖かい風が一つ通り抜け、つん、とした塩素の匂いが漂った。さっき、はしゃいでいた時に水を飲んでしまったらしい。息をするたびに、何かが引っかかるような、ごわごわとした感じが喉に纏わりつく。 (ごわごわって言えば、髪、傷むかなぁ) 湿気を含んで、くるんとウェーブをした髪をつまみながらそんなことを考えていると、 「雷蔵、休憩かい?」 プールの淵を片手で掴み、もう一方の手で手招きする三郎の姿があった。足はプールの底から離れているのだろう、彼の笑顔がふわふわと揺れている。近づこうと立ち上がると、つぅぅ、と足もとにできていた水たまりから一筋がこぼれ出した。 「ん、手、ふやけるくらい入ってたからね」 「しわしわだな」 まるで占い師みたいに僕の手をじっくりと覗き込んだ三郎は、「じいさんの手みたいだな」と笑った。それから、ぐ、っと僕の手首を握りしめて引っ張り、水中へと誘おうとする。 「え、ちょ、三郎っ」 「雷蔵がいないとつまらんからな」 そのまま、青へと落下して---------------- ← |