ふ、と勘右衛門が「そういえば、これ、誰からのチョコなんだろうね」と疑問を呈した。指をぺろりと舐めたハチが「チョコの箱の上に、メッセージカードみたいなの、あったぞ」と目線を破いた包装紙に向ける。そこには、確かに小さな白い封筒があった。

「誰だろうな、三郎が本命だろ?」
「クラスの誰かだよね……」
「何か、うちのクラスからって、想像つかねぇんだけど」

 興味津々といった感じで覗き込んでくる二人から手紙を庇うように背を向ける。ハチが「見せてくれたっていいじゃねぇか」と騒ぐのを無視して、ハートのシールをそっと爪で剥がす。折り畳んで仕舞われた便箋はレースペーパーみたいな縁取りがされている。ハチの言うとおり、クラスの面子では想像が付かなかったのだが、とりあえず引っ張り出して、開いてみて、

「げっ」

 さぁ、と血の気が引く音を聞いた気がした。まじかよ、と目をぎゅっと瞑り、それから開けて、もう一回手紙を見る。だが、その文字が消えることはなかった。どうしたんだ、と訊ねてくる勘右衛門の声が遠い。なんだなんだ、と好奇心でいっぱいのハチに、ひょい、と手紙を取られた。完全に、思考が停止していて、止めることもできなかった。

「なになに、えっと、『DEAR 不破くん』 ……不破くん? はぁ? どういうことだ?」

 それは私が聞きたい。ハチの音読を聞いた勘右衛門が、ぽかん、と口を開けたまま手紙を覗き込んだ。ざ、っと冒頭に目を通した勘右衛門は、私が固まった理由を悟ったのだろう、信じれないといった顔つきで「本当だ、不破くんって書いてある」と言葉を零した。だが、まだハチはこれがどういうことなのか、意味が分かってないらしく「三郎の苗字、鉢屋だろ? こいつ、間違えてないか?」と首を傾げている。

「だから、これ、鉢屋宛のチョコじゃないってことだよ」
「へ?」
「『不破』って子へのチョコだった、ってこと」