Palm

    お話にならないおはなしたち。健全もカプも温かいのも冷たいのも雑多。

     文→←仙 (パロディ・仙がにょた・R15)   伊作+仙蔵 (現パロ・にょた・文仙前提)
    竹→鉢(鉢雷前提)   竹鉢?(現パロ)   竹久々(R15)

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    ※パロディ(彫り師と極妻的な人)・仙蔵が女体化・気持ちR15以上で。

    絹のような白肌に、咲かせた赤を、俺は一生忘れることができねぇだろう。仙蔵は独り立ちした俺が初めてとった客だった。まだ青い実のような匂いをしていていて、師匠のなじみの女、と紹介されていた分、驚きを隠せなかった。その柔肌を刺してもいいものか、と「いいのか」と躊躇っていると艶然と微笑んで俺に告げた。

    「これで、ようやくあの人の女になれる」

    と。そこらの情婦顔負けの言葉が、こんなケツの青いガキから放たれたことに唖然とし、けれど、俺は気付いていた。つい、と睫毛が落とした翳りを。だから「もう、戻れねぇぞ」と今度は語気を強めて嗜めた。客を選り好みするんじゃねぇ、と師匠には怒られそうだったが、仙蔵の体に色を刻むのは、まるでまだ咲き始めの花を手折るような、そんなうっすらとした罪悪感があったのだ。けど、仙蔵は俺の心情などお構いなしに、「お前は意気地がないな」と毒舌を吐き、きわどい紅を引いた唇でせせら笑った。

    「あの人が私に触れてくれるなら、どんな辛いことがあっても構わないさ」

    それが本音だったのか、それとも、強情だったのか。俺には知る術がない。ただ、筋を入れた瞬間の、その痛みに耐えるために噛み締めた唇の赤さを俺はまだ覚えている。



    ***

    それから俺と仙蔵は彫り師となじみの客という間柄になった。

    「さて、」

    部屋に俺が踏み入れるなり、なんの躊躇いもなくいつものように仙蔵は襦袢の紐を解いた。はらり、とひた垂れる薄布から零れる美しく張りのある肌。仕事柄、人の裸体など見慣れているはずなのに、惜しげもなく晒す姿にじわりと熱が頬を食む。煽情に負けそうになる指を拳の中に握りしめ、言い聞かせる。こいつは、客なんだ、と。------初めて出会った瞬間から、俺は、こいつに惚れていた。

    「ほれ、脱いだぞ」

    あっけらかんと襦袢を投げ捨てた仙蔵を視線から外し、軽く伏せながら道具を準備していると、くつくつ、と笑い声を仙蔵が聞こえてきた。「純情だ」とからかわれたのはいつの日だったか。思い出せぬほど、もう遠い日々になってしまっていた。初めて彫りいれた花が、かき消されそうになるくらい、その肌を俺は刻んできた。

    「今日は?」
    「新しく筋を入れておくれ」

    解っていたが念のため尋ねると、想像通りの言葉が返ってきた。あの人-----惚れこんだ末に夫婦となった旦那が、新たな女を作るたびに仙蔵がここに来ることを、俺は言葉の端々から感じていた。それは妻としての矜持か、それとも、引きとめるための手段なのかは分からなかったが。もちろん、そんなこと口にしようものなら叩き出されそうで、怖くてする気には一切なれなかったが。

    「あぁ」

    肩先から零れた黒髪を手早く纏めると寝台にうつ伏せになった。-----俺は仙蔵の幸せを祈りながら、密やかに旦那が浮気をすればいい、と願っていた。なぜなら、ここでしか逢えねぇから。ここでしか、触れることができねぇから。



    ***

    歳月は否応なく人を呑みこんでいく。弾けるような瑞々しさがあった仙蔵の肌は、今は甘く熟れた果実のような匂いがするようになっていた。まろやかなそこから、それだけ時が経たことが、年老いたことが、手に取るようにわかった。初めての出会いから幾許の時間が流れたのだろうか。仙蔵が旦那のことを口にすることは、ほどんど、なくなった。

    「今日は?」
    「筋を入れてくれ」
    「あぁ」
    「けど、今日で、最後だ」

    うつ伏せの背中が歪んだような気がして、俺は思わず針の手を止めた。「仙蔵?」と問いかけると、仙蔵は身を起こした。匂い立つような美しさだった。たわわな乳房、丸みの帯びた腰、円熟味の増した白い肌。少しだけ崩れかけたラインですら俺を煽る。俺だけがその変遷を知っていた。けれど、俺は一介の彫り師だった。そうでなければ、いけなかった。はず、だった。

    「お前も、私に触れてくれぬのだな」

    初めてであった時と同じ、瞳に堕ちる冥い翳り。唇に含まれた笑みは、あまりに儚かった。











































     

    ※女の子化してます。文仙前提。

    太陽が翳るころには急激に保健室は寒くなってきた。ひそりと忍び寄る冷たさに、カーディガンの襟を合わせてボタンを留める。病人かけが人でもいれば暖房でも入れているだろうが、あいにく、部屋には自分ひとりしかいない。気温が下がってきたのは感じていたが、動いたら何か体に籠っている熱が出てきそうで、壁にかかっているリモコンを取りに行くすら億劫で、そのままにしていた。

    (もう、今日は来ないだろうし、当番日誌を書いて帰ろう)

    ペンケースを取り出すために、机の横にかけてある鞄に片手を突っ込む。空いた右手で分厚い日誌をめくる。今日の日付のページを開けても、まだ、なかなかをペンケースらしき形状のものを探り当てることができない。片手間でやっているせいだろうか。仕方なく、鞄を覗いてみると中には、シャーペンや消しゴム、定規に色ペンや付箋などが転がっていた。チャックを閉め忘れてしまったのだろうか、ペンケースの中身がぶっちゃかってしまったらしい。

    (はぁ…)

    地味かつ、何か妙に腹が立つ事態に自分の不運を呪いながら片づけていると、ふ、と日誌に影が落ちた。くすん、と鼻を鳴らす音に顔を上げれば、「寒い」と憮然とした表情をした仙蔵が立っていた。入ってきたことに、全然、気付かなかった。ぐるぐる巻きにした紺色のマフラーに顔をうずめている。覆われている部分以外に見える肌の色はこっちが心配になるぐらい蒼白で。いくら冷え症だとはいえ、ちょっと、大丈夫だろうか。

    「あれ、文次郎は?」
    「あの馬鹿か? あの馬鹿なら生徒会室に籠ってる」
    「あー、何、また仕事引き受けたの?」
    「まったく、ただでさえ要領が悪いのに、この時期に引き受ける奴があるか」

    ぶつくさ言いつつも、それは文次郎を思って言ってることなのだろう、と分かるから、仙蔵の罵詈雑言も聞き流す。

    「それで、保健室に来たわけ?」
    「ここなら暖房が効いてるかと思って」

    けど当てが外れたようだな、とため息交じりに呟く仙蔵に「あー、今日は人が来なかったからね」と事訳すると、今度は大きな舌打ちが聞こえた。あからさまな態度に、ちょっと意地悪を言ってみたくて。「先、帰ればいいのに」と言うと、「マフラー借りてるから、な」と、これまた意地っ張りな仙蔵らしい返答が戻ってきた。











































     

    そろそろ寝ようか、なんて考えて布団を敷いていたら、ふと障子に濃い影が映っているのに気付いた。長く伸びるそれの形は、よく知った彼たちのもので。けれど、俺は迷わずその名を呼んだ。「三郎」と。なにせ、今日は雷蔵は学園長のお使いに出ていて長屋にはいないのだ。僅かな躊躇の気配は、気のせいだろうか。一寸の後、スパン、と勢いよく開けられた障子戸の向こうで闇がざわついた。

    「なんか、つまみ、ねぇのか?」

    夜着姿の彼の手からは、縄で括られた酒瓶が垂れさがっていた。勝手にずかずか部屋に入り込むと、俺の布団にどっかと腰を下ろす。こっちの都合などお構いなしだが、強く帰れと言えないのは、惚れた弱みだろう。

    「どうしたんだ、これ?」
    「寒くて寝れないものだから、くすねてきた」

    楽しそうな、今にも口笛が飛び出してきそうな緩んだ唇は、けど、確かに青白い。こんな薄着で風邪引かねぇだろうか、と心配する俺をよそに「ま、呑めよ」と三郎はぐいのみを差し出してきて。一瞬、指先がすくんだ。受け取る時に触れた三郎の冷たさに、背筋が粟立つ。こいつ本当に血が通ってるのか、と思わずにはいられねぇほどの、体温。

    「お前、ホント、冷たいな」
    「冷え症なんだ」

    普段どうやって寝てるんだ、と問うと三郎は笑みを零した。「雷蔵の隣で寝れば温かい、」と。その屈託のなさに、つきり、と胸の奥が痛む。普段から嫌というほどわかっているのに。三郎にとって雷蔵は特別なのだと。けど、こうやって改めて知らしめさせられると、けっこう、辛い。

    (どーせ、雷蔵がいなくて淋しいから俺のトコに来たんだろう)

    思わず「お前さ、雷蔵と離れたら、どうやって寝るんだよ」とひどい言葉を投げた。己のぐいのみに酌をしていた三郎の手が止まる。たぷん、と器の中で注がれた酒が揺れて細波が生まれた。ほんのわずかな水面で、ぶつかり、うねり、そして相殺されて消えていく。最後の波が消えて、再び静けさが落ちる頃、ぽつり、と三郎が呟いた。











































     

    自動ドアに続いて盗難防止のゲートを通り抜けると空調の効いた乾いた風が肌を撫でた。天井からつりさげられた飾り気のない照明に妙に白く明るい空間が広がっている。そろいの青いスタッフジャンバーを着た店員が「いらっしゃいませ」と声を張り上げた。ただっぴろい店舗はそれなりに客がいる感じで、それぞれが思い思いに買い物をしている。俺も目当てのシューズコーナーに足を向けた。

    それぞれのブランドカラーとメーカーのロゴが目につく。普段から履くものだけに、自分に合ったものを見定めようと、俺はじっくりと品定めに入った。背丈よりも随分と高い場所までずらりと陳列されているシューズたち。エナメルの素材なのか、上からの光でぴかぴかに輝いている。

    (こっちはデザインはいいけど重たいし、これは似合わねぇ、な)

    ふ、と視界の端に流線型のスニーカーが飛び込んできた。黒をベースに嫌味にならない程度のゴールド、紐が遊ばれたデザインが気に入って、それに指を伸ばす。手に取ってみると、軽さもちょうどいい。サイズを確かめようとひっくり返すと、靴底に刻まれていたのは、自分よりも一つ小さい物で。在庫がどっかにあるだろう、と目につくところは探してみたものの、その品番のシールが貼られている箱はなくて。可動式の棚の隙間から見える靴の箱の山は、今にも崩れそうで微動だにしない、つまりは絶妙なバランスで積まれていた。ここから探そうと思うと、相当、骨が折れそうだ。

    (どっか、店員、いねぇか?)

    辺りを見回すと、ちょうど青いスタジャンを見つけた。店のロゴが入った背中は、製品か何かの確認だろうか、忙しそうだったが俺はスニーカーを片手に声をかける。

    「すんません、」

    「はい」と振り向いた店員は人当たりの良さそうな笑顔を見せた。すぐさま整理の手を止めて俺の方に姿勢を直すところに好感を覚える。ネームプレートには竹谷の文字。

    (たけたに? いや、たけやか?)


    「これの一つ大きいのってある?」
    「あー、ちょっと待ってくださいね」

    俺からそのスニーカーを受け取ると、す、っと従業員用の扉に消えた。数分もしないうちに、申し訳なさそうな表情を連れて彼が戻ってきた。

    「すみません、そのサイズは、今、品切れでして」
    「そっか」

    予想通りの言葉にぞのまま踵を返そうとすると、「あ、けど、」と竹谷が俺を引きとめた。

    「あ?」
    「たぶん、そのサイズでいいと思う」
    「え?」
    「この型、見た目が細い割に中はでかいっつうか、足の辺りの切り返しが特殊っつうか、あーとにかく履いてみたら分かるんで」

    差し出された靴に、絶対小せぇよな、と内心思いながら、半信半疑で足を突っ込む。と、思ったよりも奥行きがあって、足にぴったりとはまり込んだ。「どう?」と嬉しそうに話しかけてきた彼に「あぁ、」と答えながら、ちょっと歩いてみる。これ以上ないってくらい、しっくりときて。「これにしようかな」と呟くと、彼はぴかりと笑った。











































     

    ※ひめはじめ。気持ちR15以上で。

    もう、戻れない。

    ぱたり。か細き焔は彼の息吹によって、掻き消された。急に光明が断たれたものだから、瞼裏にチカチカと火の粉の影が遷ろう。蝋燭の芯に含まれる動物の焼ける臭いに鼻が慣れる頃、ようやく闇の拡散に視界が追いついた。

    「はち」

    暗がりにその輪郭を探すと、柔らかに空気が揺れた。冥みを割って現れた手が俺を引き寄せる。その力強さとは裏腹に「兵助」と俺の名を声が、震えているような気がして。俺は額をハチの胸に押しつけた。それから、そのまま手を回し、いつものようにハチの背中の窪みを指先で確かめる。ハチに抱きしめられるたびに、つい、してしまって、癖になってしまっていた。知らず知らずのうちに俺の指先には刷り込まれている。衣越しに感じる形も、温もりも。けれど、よく知っているはずのそれが、今日は、なぜだかいつもと違う気がした。彼の胸の奥に棲む音が、嵐のように耳を支配する。ごぉごぉと逸るのは血のめぐりか、それとも呼吸のそれか。-----どうしようもなく、触れたかった。この世で一番近しい場所にいたかった。

    「兵助」

    耳朶に熱情が走る。囁くような潜まった声だというのに、直接、体に響くような感覚。俺の頭を抱えていた大きな手はそのまま髪を梳くようにして降りてゆく。ごつりとした骨々しい指が首筋からゆっくりと顎にかかり、ふ、と視線が絡み合う。ぬらぬらと欲情に滾る瞳は、今まで見たことのないもので。普段とは違う表情に、一瞬だけ、怖くなって。背中に回した指先で、たるんだハチの衣を、ぎゅ、と握りしめる。

    「兵助?」

    さっきの甘ったるいものとは違う、困惑する声に、薄暗さの中でも何となくわかった。ハチが下がり眉で俺を見つめているのが。「やっぱ、止めとくか?」と凪いだ声に慌てて頭をかぶり振る。

    「いや、大丈夫だから」
    「けど」

    もう戻れないところまで来ているというのに、まだ躊躇うハチがじれったくて。俺は蕩けそうなほど熱を帯びた唇を首筋に押しつけた。