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パタパタ、と軽やかな足音が長屋に近づいてきた。
委員会の後輩だろう、と手にしていた筆を置くのと、挨拶もなく扉が開け放たれたのは同時だった。

「せんぱーい。…あれ、文ですか?」
「何を書いてるんですか? 誰に書いているんですか?」
「……授業でな、文を書く課題があったんだ。…そのうち、お前たちもこの文を書くようになるよ」

より実戦に近くなってきた演習に命を落とすこともありうる、と。
その時のために、文をしたためろ、と。
さいごの、ことばを。

「うわぁ、今の間、怪しい。恋文ですか?」

(恋文、か。確かにな)




綾部へ  久々知兵助




潮江文次郎様  立花仙蔵




留さんへ  伊作より




滝へ  小平太より




仙蔵へ  潮江文次郎




久々知兵助先輩へ  綾部喜八郎 拝







「さて、と。委員会だったな。行こうか」
文を読みたそうにしている後輩達の背中を押し、文紙をくるくると丸めた。



(願わくば、この恋文を君が読む日がくることがないよう、)