僕らの
ネバーエンディングストーリー




「はぁ」

がちりと肩のあたりを食い込むリュックの重さに、もう一つ、ため息を零す。
ついでに顔を上げると、ずらりと続く同じ色したジャージの隊列が視界に入ってきた。
ガタイのいい奴らが連なる様は、小学生にあるような可愛さは一切なく、威圧感さえ感じる。



(高校生にもなって、遠足があるとはな)

ついでに辺りをふらりと見回すと、きちんと、列を守っているのは自分だけらしい。
隣にいた一つ前の出席番号の奴(名前は忘れた。俺が久々知だから加藤とか、そんなんだろう)は、とっくに姿を消していた。
出発前に校庭で並んでいた時に、友達と一緒に歩く算段をしていたから、隊列を抜けたのだろう。
さすがに高校生ともなれば教師もいちいち注意をすることはなく、隊列とさっき自分は称したが、実際の所は、だらだらと広がって歩いているようなものだった。



(休めばよかったな)

さんさんと降り注ぐ日差しは、これでもか、というくらい射抜くように強烈で、目に痛い。
出かける前に見た「今日は全国的によく晴れて夏日になるでしょう」というお天気のお姉さんの甘ったるい声を思い出し、気が遠くなる。
授業をさぼる、という意識はあんまり持っていないけれど、今日ばっかりは、そんな思いが過った。



高校に進学して一ヶ月。
この時期に行われる遠足は、きっと親睦を深めるためなのだろう。
けど、なんとなく、クラスに溶け込め切れてない自分にとっては、あまり楽しいものではない。

(まぁ、小学校みたいに「独りでお弁当を食べる子がないように」なんて言われないだけいいけれど)

俺は本当に心を許せる友人であれば少なくてもいいと思っているのだが、友達が少ない=淋しい子
という等式が教師には成り立っているらしく、昔から遠足の時にチェックが入れられるタイプだった。



「っ」

そんなことを考えながら、ぼんやりと歩いていると、何かにけつまずいた。
脛のあたりに衝撃が走り、思わずうめき声を上げていた。
と、足もとから、焦った声が届く。



「あ、悪い」

よく見ると、何かにというか、座りこんでいた奴に、ぶつかったらしい。
「靴ひもが解けてたから結んでてさ」と件の人物は、申し訳なさそうに俺を見上げた。
それから、パン、とジャージに着いた砂を払いながら立ち上がり、「ケガないよな?」と俺を一瞥した。
俺が頷くと、そいつは心配気だった顔はほっとした表情に取って代わり、それからすぐに人懐こい笑顔へと変化した。

(犬みたいだなぁ)

なんとなく大型犬を思い出して、つい、笑いそうになり、「さすがに初対面でそれは」と堪えるために視線を伏せて、ふ、と気が付いた。



「また、解けそうだな」

足もとに幅広の紐が、だらり、と広がっていて、結び目のところが緩んでいるのが分かる。



「あー俺、靴ひも結ぶの苦手なんだよな」

照れくさそうに笑うと、そいつはまた屈んで紐をほどいた。
再度、輪っかを作って逆の紐をくぐらせ、、、とできた蝶結びは、酷く不格好だった。
できたリボンが横ではなく斜めに広がっているのを見てもう一度やり直して、



「そうやってやると縦結びになる」

つい、しゃがみ込んで、手を出していた。









***



「ん。これで、簡単には解けないと思う」
「ありがとな、えっと…ひさびさ?」

まじまじと、俺の胸元に落とされる視線に、ジャージに刺繍された名を読み取ろうとしているのが分かって、「くくち」と苗字を告げる。
けど、やっぱり意味が分からなかったらしく、そいつは「え?」と不思議そうな面持ちで俺の顔を見た。
音が変換されるよう、”久々知”と刻まれた名前を指さしながら、教える。



「ひさびさじゃなくて、これで、くくちって読むんだ」
「へぇ。あ、俺、竹谷。よろしく!」

ぱっと、目の前に差し出された、そいつの、もとい竹谷の掌の勢いに、「あぁ、よろしく」と押し切られてしまっていた。












(こうして、俺の最高の3年間が始まった)








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