蛍光灯の乾いた光が、ぽっかりと闇に浮かび上がっていた。

空気の抜けるような音と共に自動ドアが開いて、店内へと足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ」と明るい声とは裏腹に、店員はひどく迷惑そうな顔をしていた。
思わず店員の頭上、壁の時計を見遣ると、短針と長針がちょっとだけずれた、午後9時50分。

(そっか、10時閉店だっけ)



なんとなく居たたまれない気分になったのは僕だけだったようで、三郎はそんなこと気にも留めないように一直線にアイスの入ったショーケースへ向かう。
慌ててその背中を追いかけると、ぱっと、宝石箱を開けた時みたいな鮮やかな煌めきが視界に飛び込んできた。 初めて絵の具って時に、嬉しくて、つい、パレットに全色を出してしまった時のような、ワクワクしたものが胸にこみ上げてくる。



「こんなに種類、あったっけ?」
「久し振りにきたからな」

即断型の三郎も、さすがに豊富な種類に考え込んでいるようで、顎に手を当てると、じっくりとケースの中を覗き込んだ。
ミルクが練り込まれたかのような柔らかい色合いのしたアイスから、外国の飴玉を砕いて割ったような、弾けた色彩のシャーベットまで、ありとあらゆる冷菓が並んでいる。
それぞれに付けられた名前も、その但し書きを見ると「あー、なるほど」と頷きたくなって、どのアイスも味が気になって仕方ない。



「雷蔵、決めたか?」
「迷い中。この、いちごミルクとか気になるんだけどさ」
「あー確かに」

(あ、イチゴソルベはさっぱりしてていいかも。あ、でも定番のも捨てがたいよなぁ)

あちらこちらと、と目移りしてしまって、なかなか候補すら絞り込むことができない。



「雷蔵、決まったか?」
「うーん。まだ」
「先、支払いしてるぞ」

いつの間にか決まったらしく、ポケットにねじ込んだ財布をひらひらと振ると、三郎はレジに待機している店員の方へと向かった。

「うん」

そう返事を送ると、僕は再びショーケースに没頭する----------------









***



「で、結局何にしたんだ? フレーバー」

店を出ると、自動ドアのすぐ傍で三郎はコーンにかじりついていた。
ちなみに、僕はカップにすることが多くて、三郎はワッフルタイプのコーンだ。
付属のプラスプーンで、ぐるりと底から掬い上げると、放りこんだ。
じんわりと冷たさが頬に広がっていき、それと同時に口の中に甘さがゆるゆると解けていく。



「モカ」
「いつもの?」

わざと語尾を跳ね上げて、三郎は呆れたように(あ、実際に呆れられてるのか)僕の方を見やった。



「そう。だってさ、店員さん、すっごい見てくるし。『もう閉めたいんですけど』オーラ全開で」
「客なんだから堂々としてればいいのに」
「それは三郎しかできないって。ところで三郎は何にしたの?」

僕の問いかけに、三郎は全く聞いたことのない、そして「その組み合わせはありなのか」と思うような商品名を挙げた。



「相変わらず、奇抜なの選んだね」
「そうか? 結構いけるぞ」

歌うように楽しげに言った三郎は「食うか?」と、僕の方にパレットみたいな白のベースに、キラキラと色とりどりのジェリービーンズのようなものが混じったアイスを差し出した。











(鮮やかな色彩が口の中で弾けていく)