雷電霹靂




「おまえ、雷が嫌いなのか?」
「べ、別に」

平然と答えるつもりが、自分でも声が上ずったのが分かって、隠しきれない自分を忌々しく思う。

(くそっ。なんでこんな日に、突然、雷が鳴るんだ)



苛立ちの対象となる窓の先に視線を送ると、鞭打つような激しさで雨粒がガラスにぶつかっていた。
電気は点けっぱなしなはずなのに、どうしてか薄暗い教室には日直である私と文次郎だけしかいない。
普段であれば終礼と同時に教室を出ていたはずで、そうであれば、こんな悪天候に巻き込まれることはなかった。
が、「日直だから」という理不尽な理由で担任の受け持つ教科の冊子閉じの手伝いをさせられて、職員室から戻り通常の日直の業務をし始める頃には、学校の上を大きな暗雲が覆っていた。



「だいたい、文次郎、お前が悪い」
「は?」
「ほいほいと仕事を引き受けよって」

怒りの矛先を、この雷雲でもなく仕事を押しつけた担任でもなく、文次郎に向けることで、じわりと狭まってくる嫌な感覚を忘れようと試みる。



「やっぱり、嫌いなんじゃねぇか、雷」
「平気だといってるだろうが」

いつの間にか黒板を消し終わっていた奴が、私の前の椅子にどかりと座り込んで、じろじろと日誌を見入っていた。



「ふーん。そう言う割には、あんまり進んでねぇな」
「なら、お前が書け」

文次郎に日誌を押し付けると、そのページに転がっていたシャープペンの芯が折れた。
「なんで俺が」と文句を言いつつも日誌を引き寄せた文次郎のために、拾ってやろうと、席を立って、
閃光が瞼を切り裂くと同時に轟音が落ちた。



「っ」

飲みこめなかった私の悲鳴が教室中にこだました。



「やっぱり、怖いんじゃねぇか」

座り込んでしまった私を、にやにやと見てくる文次郎に鉄拳でも入れてやろうかと思う。
が、力が抜けてしまった体は、芯が失われた針金みたいにぐにゃりとしていた。
立ち上がるのすらできず、それでも、せめて文次郎を睨みつけてやろうと顔を上げると、



「ほらよ、掴まれ」

と、大きな手が私に差しのべられていた。











(お前がいるからちょっと安心してる、なんて口が裂けても言わない)