四月一日のうそつき
静謐の几帳で、僕と雑渡さんは隔てられていた。 時々、その合間合間を縫うように、ぽつぽつと、雑渡さんが話しかけてくる。 あいの手のような絶妙さに、鬱陶しいほど話しかけてきたら追い出せるのに、と密やかに毒づく。 「伊作くんは、私が嘘吐きだと思うかい?」 「えぇ。あなたを嘘吐きと言わなかったら、他の誰も嘘吐きじゃありませんよ」 雑渡さんの苦笑を背に、薬草を煎じようと棚に手を伸ばす。 数日前に天日干しをして取り入れてあった蓬は、かさりと乾いて重量を失っていた。 手元に薬を研ぐために道具を引きよせ、椀状になっているところに蓬を投げ込んで、石輪を転がす。 ごりごりごり… 真正面に座っている僕が目を合わさないのに構わず、雑渡さんは問いを僕にふった。 「伊作くん、知ってるかい?」 「何をです?」 「今日は、嘘を吐いてもいい日だそうだよ」 「そうなんですか」 ごりごりごりごり…… 墨を流したような夕闇が迫る部屋には、頭の芯を揺さぶるような音が響き続けている。 うっすらと漂っていた、薬研ですられた蓬の青臭い匂いが、だんだんと色濃くなっていく。 もういい加減、頃合いも過ぎているのは分かっていたけれど、すり潰す手を止められない。 (止めたら最後。たぶん、僕は、) 「伊作くん、嘘でもいいから言ってくれないかい?」 「何を?」 ごりごり、ご、 僕の手を、ひたり、と傷だらけの浅黒い手が覆った。 動きを差し押さえられて、僕は、雑渡さんを見るしかなかった。 きっちりと巻かれた包帯の奥に覗く瞳は、悲しいほど優しかった。 「すき、と」 (そんなこと、微塵も思ってないのに) だから、優しい微笑みで、酷い睦言をさらりと言ってのける雑渡さんに告げる。 「きらいです」 と。 (だって、あなたは嘘つきだから、)
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