ひがん




「たき。おすそわけされたから、一緒に食べよう」

大きな皿を抱え込んで、満面の笑みを浮かべた七松先輩が近づいてきた。
「どうしたんです?」と覗き込むと、つやつやとした餡子が目に飛び込んできた。
一つ二つ、といったおすそわけ、というのではなく黒々とした山が形成されていてる。



「ぼた餅、ですか?」
「うん。さっき、食堂のおばちゃんがくれた」
「あぁ、今日は、彼岸ですね」

なんとなしに、悠然と空を渡っていく太陽に目を向ける。
昨日となんら変わらないはずなのに、そうやって言われると、気になる。
のは、私だけのようで、先輩はというと、すでに両手にぼた餅を携え、口の端に餡子を付けていた。



「うまいぞ。たきも食べなよ」
「いただきます」

せっつかれて、私も重なり合って境目が分からなくなっているそれを、何とか剥がして口にする。



「どう?」

もむ、っと弾力ある餅に、ほのかで上品な甘み。



「おいしい、です」
「さすがおばちゃんだな」
「そうですね」
「はぁ。でも、彼岸は嫌だなぁ」

先輩は、急に肩をいからせたかと思うと、大きく吐き出した息と共に下ろした。
ワザとらしいため息と思いつつ、「どうしてですか?」と一応、聞く。
先輩は食べる手を止めることなく、けれど、私の方を向いた。



「今日が彼岸ってことは、今は昼間と夜の時間が同じくらいなわけだ」
「そうですね。それが?」
「つまり、明日から昼の方が長くなるわけだろ」
「夕方になっても、明るくていいじゃないですか。
 日没時間が遅くなれば、委員会のマラソンも遠出できますし」

心の中で(私はあんまり遠出したくないですけど)とこっそり付け足す。
距離が長くなれば、当然、金吾や四郎兵衛はついてこれないし、三之助の迷子の率も高くなる。
苦労が増える私が、昼が短い方がいい、というのならともかく、誰よりも委員会が好きな先輩の言葉とは思えなくて。



「どうして、昼の時間が長いのが嫌なんです?」
「やーだって、昼の時間が長いってことは、夜の時間が短いってことだろ」
「せ、先輩。彼岸ってのは、煩悩の満ち溢れた世界から、悟りの世界に行けるよう、
 日頃は忙しくてできないからこそ、善き行いをして先祖を尊び、行いを慎む時ですよ。
 なのに、そんな、夜が短いから色恋沙汰で困る、なんて煩悩の塊じゃないですか。ご法度ですよっ」

言いたいことが想像ついて思わず泡を飛ばして食らいついたら、先輩は困ったように頬を掻いた。



「えっと、そんな意味じゃないよ」
「じゃぁ、どんな意味なんですっ!?」
「夜は六年生で実践に近いトレーニングをしてるから、夜が短くなるとなぁ、と思って」
「え、あ……」

恥ずかしさに顔から火が噴き出そうなくらい熱くなるのが分かった。
今ここに、穴があったら入ってしまいたい。
(誰か、喜八郎を連れてこいっ)











「……たき、って実は、やらしぃ?」「先輩、セクハラで訴えてもいいですか?」