午後10時のシンデレラ




「あー楽しかった」

パレードの余韻が、まだ、ふわふわと闇に漂っていて。
あちらこちらで浮かれた談笑が聞こえてきて、僕たちも、つい声が大きくなる。
これからまだ土産を買おうとショップに入ってく人たちを横目に、僕らは出口を目指す。



「買い忘れた物、あるなら今のうちだぞ」
「最悪、駅に行く前のところで買えばいいんじゃないか」
「つーか、これ以上、買ったら、持って帰れないって」

ハチの言葉に、買い込みすぎたかなぁ、と、つい右肩下がりになる自分の事を思う。
気を効かせてもらって一つにまとめてもらった袋が、掌に食い込んでいて。
痺れるような痛みが、石のように重い肩まで伝わってくる。

(けど、気軽に来れるところじゃないしなぁ、)

ショップに入るたびに、鮮やかな色彩とその品数の豊富さに圧倒されて。
どれを買っていこうかと悩み、しびれを切らした三人に急かされて。
結局、めったに来れないから、と、ほとんど買っていた。
おかげで、財布はかなり軽くなってしまったけど。

けれど、ふわふわと、楽しい気持ちに敵うものはないだろう。



「あー、足、痛ぇ」
「結構歩いたからな。遊び倒したって感じだし」
「結構、ラッキーだったよな。タイミングよくパスも取れたし」
「平日だったから、すいてたのかもね。並ぶのも、少なかったし」

そんな話をしながら、のろのろと歩いていると、いつの間にか、出口のゲートが見えてきた。
なんとなく、このまま出ていくのが、名残惜しくなって。
それは、みんな同じ気持ちだったのだろう。
四人の足は、まるでその場所に縫いつけられたように、ぴたり、と止まっていた。
そのまま振り返ると、柔らかく灯されたイルミネーションがきらきらと闇に滲んでいた。



「さてと」

三郎が呟きながら、キャラクターの付いている帽子を取った。



「これって、マジックだよな」
「そうそう。この中にいると、つい、買っちまうんだよな」
「そうなんだよね、家とかでは使わないって分かってるのにね」

そう言いながら僕たちも、それぞれに被っていた帽子を脱ぐ。



「帰ろっか」
「あぁ」

夢の国に背を向け、僕たちは歩きだした。










(魔法はいつか溶けるけど、その時間は消えることのない、)