ぎゅう




「うぉぉ!」

玄関で小平太を迎えるなり、彼の歓喜の叫びが轟いた。
台所は、そこからでは、見えてないはずなのに。
「肉だ!」と目を輝かせている。

(まるで、犬のようだ)



「にーく! にーく! どうしたの、これ?」

叫びながら、台所と廊下との間にある玉すだれに突入するようにしてかき分ける。
勢いあまってぶつかり合う音が耳に痛いけれど、気に留めるでもなく。
置かれていた木の箱に食らいついている。



「…知らなかったのか?」
「うん。仙ちゃんから『酒持って文次郎の家集合』ってメールが来ただけだから」

ぴょこぴょこ跳ねる小平太の横で包丁を繰っていた伊作が、包丁ごと肉の箱を差した。



「長次の家から肉が送られてきたんだって。だから、今夜はすき焼きだよ」
「ほんと!?」

小平太の言葉に、こくり、と頷くと、ぎゅっと、俺の手を握って、ぶんぶん、と手を振り回される。
きっと、小平太なりの感謝を表現しているのだろう、力いっぱい込められていて。
そろそろ腕が痛い、と思っていると、急にぱっと手が離れた。



「小平太、手、洗っておいでよ」
「えー。面倒だからヤダ」
「洗ってこないと、食べさせてあげないよ」
「ちぇ」

衛生面で叶うわけがないと悟ったのか、伊作の笑みに負けて小平太はしぶしぶと洗面所に向かった。
と、それまで、一言も発さずに鉄鍋の中を覗きこんでいた留三郎が、顔を上げた。
てかてかに油で光った菜箸を振り回し、叫ぶ。



「おぃ、料理酒はどこだよ?」

文次郎は明日に課題提出が迫ってると、生活スペースでパソコンと格闘していて。
「その辺りにあるだろ」と背中を向けたまま生返事を返した。
途端に、留三郎の眉が跳ね上がる。



「だから、見つからねぇから聞いてるんだろうが」
「きちんと探せよ。あるだろうが」
「ねぇよ」
「あーじゃあ、もう少し待ってろ。後で渡す」
「早くしねぇと、味が落ちちまうだろうが」

ケンカになりつつある二人の会話の間で、伊作がおろおろとしていて。
そろそろ止めた方がいいだろうな、と頭の中で練っていた言葉を口にしようとした瞬間、



「ぎゅーう!ぎゅうーう!」

険悪な空気を物ともしない、小平太の弾けた声が割り込んだ。



「小平太、牛、牛って煩ぇ」
「黙ってろっ」
「いいじゃんか、うれしいんだから」

嬉しくないの? という小平太の言葉に、う、っと詰まる文次郎と留三郎。
と、それまで、ずっとラグに寝そべって雑誌をめくっていた仙蔵が起き上がった。
我関せずといった態度だったから聞いてないかと思っていたが、そうでもないらしく。
ニヤニヤと、意地悪そうな視線を文次郎と二人に向けた。



「お前ら、嬉しくないなら、食べるなよ」
「いやっほぃ! 四人で山分け!」
「くっ」










(あんまり食べ過ぎると牛になるぞ)